ハーバード・ビジネス・レビューで紹介されていた「CHANGE 組織はなぜ変われないのか」を読みました。ざっくり言うと、変化の早い時代における脅威と機会に組織として向き合う方法をまとめた本です。理論と実践が程よいバランスで書かれていて、現場のために書かれている本だと感じました。
紙上の空論とは一線を画した、適用可能な解決としてのデュアル・システム
この本は階層型組織は動きが遅いから機会を活かせないのでやめよう!みたいな極端な主張とは一線を画していて、階層型組織の安定性や脅威への対応能力を一定認めたうえで「機会を活かせないのはなぜか?」を脳科学という切り口から解決を検討し、一般化された回答としてのデュアル・システムを提示しているのが良いです。こういう本が読みたいんですよ私は。
もちろんデュアル・システムを動かすうえでの課題はあります。ひとりが2つ以上の組織に所属する難しさはマトリックス組織や兼務でさんざん知られているところですし、そもそも仕事で自発性なんて発揮したくない・発揮できない人もたくさんいます。そしてこうした問題への解決はケース・バイ・ケースですから、この本にはズバリの回答は載っていません。
ただその組織設計の根っこにある「人間の頭脳は脅威と機会に対してどのように反応するか」という知見はおおむね一般的なものだと考えられますし、M&Aや工場閉鎖などの成功事例もいくつか載っていますので「自分のケースだったらどうできるか」を検討する材料はあります。ので人間を束ねる立場の人はとりあえず読んでみて損はないんじゃないでしょうか。オススメです。
経営や組織運営の難度が上がった、というよりは、ゲームが変わってきている
ところで最近の組織論は人間のポテンシャルを引き出すためのコミュニケーションにピンを留めているものが多い、と感じます。ちょうど恐れのない組織と両利きの経営を読んだあとだったのでそう感じるだけかもしれませんが、どのindicatorに着目しろとかどんな分析や予測をするべきとかじゃなくて「人間というのはこういうナマモノなのだから、それを織り込んで組織を回していこうぜ」という組織活動を検討するときの根本に揺さぶりをかけるものが多いです。
は?そんなの当然っしょ、んなもん10年以上前からそうだよ。という方も多くいらっしゃると思います。実際私の前職も現職も、人間の多様性とポテンシャルに注目した組織作りをしています。古典であるドラッカーですら、目標管理というコミュニケーションに注目していたわけですし。
ただ、そうでない組織も実際まだまだ多いのです。外の人と話をしていると、社内政治がどうのとか、派閥がどうのとか、リモートワークは誠意がなくてけしからんとか、飲み会や運動会に全員参加をとか、そういう人間の多様性を尊重するよりも会社人・社会人という一様化を適用して扱いやすくすることに心を砕いているところがまだ多数派なんじゃないかと感じさせます*1。
そしてそういう組織に限って、いい人が取れないとぶちぶち言ってるんですよね。いや組織づくりを変えればいい人取り放題とは言いませんよ。いつでもどこでも採用は困難です。ただゲームが変わっていることに気づかないまま前時代的な組織づくりや採用をしていても、そりゃ刺さらないよねとしか思わないのも確かです。
良い組織を作ることはお客様によりよい問題解決を届けるだけでなく、自社の採用ひいては事業継続性にも資する行為だと思うので、こういうビジネス書がたくさん出て意思決定層にきちんと届くことはとても重要だろうなぁと思いました。
*1:念の為に書いておくと、飲み会もオフでの繋がりも出社もとても重要だと思っています。だからこそ全員にひとつを求めるのではなく、全員が何らかの形で繋がれるように複数の場を設けることが必要だという主張です。