組織の話が好物なので色々読んできたのですが、結局ティール組織はよくわからないままでした。最初に本を読んだのが5年も前なんですね。
ティール組織は面白くなかったというか、個人的にはそこまで響かなかった。歴史書読んでるみたいな感覚で……。リーンスタートアップは部署レベルで実践できそうだけど、こっちはそうは思えなかった。
— 絶賛異世界転生中 (@Kengo_TODA) July 6, 2018
で、自分なりに考えた結果、大きく2点においてよくわからないのだと思ったのでメモしておきます。
以下、「ティール組織」と書いた場合は書籍「ティール組織」を指します。なお昔読んだ本を読み返しながら書いているので読み飛ばしによる誤解などはあるかもしれませんし、ここ5年で新しい発見があったとしても私はそれをキャッチアップできていないことにご留意ください。
組織に人間の弱みを補う機能を求めたいのに、スキル常時発動を前提に議論が展開される
やっぱ組織を作るのは「専門家を集めてひとりじゃできないことをやる」に加えて「ひとりがダメでも他の人がいる」ことを実現したいというのはあると思うんですよ。 多様性だVUCAだバス係数だなんて難しい話は置いといて、さて自分や家族が体調を崩したときにどうするんだっけ?って単純な話ですよね。
体調管理ができてないなんて社会人失格だァなんて考え方もあるにはありますが、自分はもちろん特に家族の体調はcontrollableではないなぁというのがひとりの父親としての実感としてあります。 のでやはり柔軟にスケジュールを調整できたり他の人がフォローに入れたりしたほうが、組織としては強いと思うわけです。
で、ティール組織では以下の記述があります:
私達が自分自身のエゴから自らを切り離せるようになると、進化型への移行が起こる
進化型では、意思決定の基準が外的なものから内的なものへと移行する
なるほど。で、自らをエゴから切り離せない日はどうするんですかね? 意思決定が外的なものになってしまいがちな日は?
階層型組織では組織を機能させられない場合のためにエスカレーションがあり、Scrumだと透明度・検査・適応ができない日のためにスクラムマスターがいます。うまくいかないときに他者の助力を得る仕組みがあるわけです(そしてこれが上司の能力が組織の能力のキャップとして機能するとか、スクラムマスターに超人性を求めてしまうとかの失敗に繋がったりする)。
しかしティール組織の記述には、「上司の不在」の節におけるビュートゾルフをはじめとしたいくつかの具体的な事例が出てくるだけで、一般化が見られません。「たしかにそこに難しさがあるよね、でもうまく行ってる組織もあるしなんとかなるよ!」と言われてハイそうですかとは、さすがにならないかなと。
個人的には、組織の構成員がお互いがカバーしあうことや「助言プロセス」による意思決定を期待するのであれば、適切なタイミングでカバーに入るための情報公開・共有であったり持続可能な評価制度であったりまで踏み込んで初めて組織論と呼べるものになると思います。こうした事柄に関する記述は確かにこの本にもありますが、いずれも既存組織に多く共通するものを紹介するに留まっていて、個人的には再現性を感じませんでした。
問題解決のための手法ではない
めちゃくちゃ粗い理解として、この手の本は「上司が存在しない」ことに一定の価値を見出しています。上司がなくても組織は回る、そのために意思決定や権限管理や解雇をどうするか?という論理展開が行われます。これは一見課題に対する解決案の提示に見えますが、そもそもの「なぜ上司がいると問題なのか」の掘り下げが行われていませんし、「上司を取り除くことで解決されるのか」「上司がなくなって表面化するリスクとどう向き合うか」もあまり検討されていません。
例えば「経営陣はなく、ミーティングもほとんどない」の節にはミーティングが増えて生産性が下がることを問題として、定例ミーティングをなくし有機的なコミュニケーションで置き換えることで解決とする記述がありますが、これは上司がいるからダメというよりはマネジメントとリーダシップを混同するからコミュニケーションがうまくいってなかったやつなのでは?というように私には見えます。Team Topologyのようなチーム間コミュニケーション整理であったりチームへの権限移譲(Empowerment)であったりは今どきの階層型組織でも普通に行われることなので、何も上司をなくすなんて劇薬を持ち出さなくても……という「目的と手段のはき違い」感があるのです。
ので「上司がいなくても組織は回る」のは真だと思いますが、「上司がいても組織は回る」のも「上司がいると便利」なのも真なので、あまり組織論としては魅力的ではないなという感想になりました。Project Oxygenにぶつけて打ち勝てる本じゃないなというか。
個人的にはやっぱりこういう本は問題に対する解決手法を提示してほしいんですよね。わかりやすい例としては組織論ではないですがドラッカーの「お前の仕事は顧客の創造だ、顧客の創造にはマーケティングとイノベーションが必要だ、それぞれのためにこう考えて動け」というMECEな説明が入りやすかったです。 仮に解決を論理的に提示できず、世の成功事例を集めてその傾向を分析するに留まるとしても、Accelerateくらいのファクトに立脚した考察はほしいですね。
まとめ
結局は良い上司に恵まれてきたので「上司、いいじゃん!」が自分の意識の根底にあって、これが違和感を作ってるんだろうなと。あとまぁ人間の可能性を信じすぎというか、負の可能性から目を離しすぎというか。
今から読み直すような本ではないと思うので、マネジメントだけがリーダシップを握ることに限界を感じている方には「チームワーキング」をおすすめします。これは再現性があると感じさせてくれるというか、問題を要素に分解したうえで現状を変えるためのTODOが整理されているのでとっつきやすいです。