そりゃ間違ってるんだけど、ではどうするべきなのかが見えてないなぁという話です。
事業が大きくなると組織という仕組みの重要性が上がる
同僚が何千人といたメガベンチャーから社員数20数人のスタートアップに転職してから1.5年経ちました。ここまでに自分が貢献した内容にはSREや医療情報技師としてのものも当然あるのですが、マネジメント経験のあるIndividual Contributorという立場から組織の成長や組織における連携について補足や関連情報を提供するということも意外とありました。例えば社内ブログや社内勉強会で触れたものには以下のようなものがあります:
- コーチング紹介
- ヒューマンスキル紹介
- 爆速アウトプットを組織的に支える施策
- 事業の急成長における表側と裏側
- 稟議入門
こうした知識や観点を個々人が持つことは、ボトムアップと呼ばれる自発的な行動を支援する意味では大きな意味があります。そして少ない人数で尖った成果を出すことが求められるスタートアップ立ち上げ時には、これで充分でもあると思います。
一方で事業と組織が急成長していくフェーズでは、これでは足りないというのも事実です。もちろん個人の知識や観点を伸ばしていくことは引き続き大切ですが、人数が増えたことによるコミュニケーションの混乱や事業拡大による着眼点の増大についていくためには、底上げ的な施策や目標の明確化、すなわち組織をマネジメントするための動きが必要になります。トップダウンが必要だということではなく、ボトムアップを続けるためには最も情報を多く持つトップがきちんと情報や要求を棚卸しして、従業員に共有し続けなければならないということです。
事業目標の明示と共有に、トップの演説。
燃え尽き症候群対策に、ピープルマネジメント。
従業員の成長支援に、教育とコーチング。
従業員エンゲージメントの向上に、定期的な面談や人事施策などの実施と評価。
従業員の常識を合わせるための、定期的な従業員教育や統制。
このような「組織をマネジメントするための動き」をトップがやっていたら事業成長に時間を使えなくなりますし、専門家を採用して任せようということになります。こうしてスタートアップは組織化され、専門家が進み、より質の高い課題解決をお客様に提供できるようになっていきます。
組織化はチームマネジメントの負担を高める
しかし人事部があればそれでオッケーかというと、そういうことにはなりません。各部署やチームごとに働き方や求められる専門性、扱う情報などは異なりますし、職場に求めるものは個人レベルで異なります。そうした異なるニーズに対して人事部がケアしきることは事実上不可能です。
この問題に対する解決策でよくあるのが、人事部はルールやツールの整備をし、実行の多くをチームマネジメントが担う方式です。つまり部長や課長に相当する中間管理職に対して、その部下への「組織をマネジメントするための動き」を期待する方式です。部長や課長であればそのチームがどのような働き方をしているのか把握していますし、部下それぞれの個性もわかっていますし、面談を通じてコーチングすることもできます。よってチームマネジメントが「組織をマネジメントをする動き」をすることは合理的であり、組織としてスケーラブルな施策であるとも言えます。
しかし待ってください、チームマネジメントにはもともと他の役割を期待していなかったでしょうか。それはプロダクトマネジメントかもしれないですし、プロジェクトマネジメントかもしれないですし、コードレビューや渉外かもしれないですが、とにかくチームを結成してここに代表者を置いた時点で何らかの機能を持たせていたはずです。チームマネジメントはその道の専門家であって、ピープルマネジメントだ従業員エンゲージメントだ統制だとあとから役割を増やすことにはいくつかの問題があります:
- その人には「組織をマネジメントするための動き」に対する知識や関心がないかもしれない。チームを率いるものとして組織に全く関心がないということはないかもしれませんが、そんなの人事でやってくれという声を聞くことは珍しくないのでは。
- その人の「組織をマネジメントするための動き」を評価してフィードバックすることが難しい。前提の整理やゴール設定を中央管理的にできないからチームマネジメントにお鉢が回ってきているわけで、そのチームマネジメントがきちんとできているかを外部から評価することは意外と難しい。
言い換えるならば、組織化はチームマネジメントに対して多彩な要件をつきつけます。経営者が経営に必要なすべてを担い、スクラムマスターがスクラムの運用に必要なすべてを担うように、組織化はチームマネジメントにチームが機能するために必要な全てを背負わせます。そして事業の成長とともにチームとそのメンバーに対する期待値も高まり、チームマネジメントへの負担も向上します。
これは組織を運営する我々が、チームマネジメントに超人であることを求めていると言えないでしょうか。チームにおける単一障害点(SPOF)であるチームマネジメントにここまで高い負荷をかけることは、組織運営上正しいことなのでしょうか。
求められるのは「組織をマネジメントする動き」の専門家か、それとも「組織をマネジメントするための動き」のコモディティ化か
浮上した課題に対して組織化によって対応したこと自体は、大きな間違いではないと思います。two pizza teamを作ってこれをまとめることで事業と組織を大きくすることは、今やシステム開発におけるベストプラクティスのひとつだと言っていいでしょう。となると「中央管理を諦める」か「分散実施をチームマネジメントによって実現する」のどちらかに課題があると思われます。
ただ中央管理にこだわるのは、事業成長のどこかで破綻するのではないかと考えています。もちろん人事部はミッション・ビジョン・バリュー(MVV)を整理して全従業員が共通言語で話しあい評価しあう組織を志向するべきですし、そのレベルでは中央管理もするべきです。しかし前述のとおり、チームや従業員ごとの個性に対する配慮なしには「組織をマネジメントするための動き」は実現できないため、どこかで破綻するだろうというのが自分の考えです。
よって解決は「分散実施をチームマネジメント以外の仕組みで実現する」になるでしょう。しかし、具体的にはどうすればいいのでしょう?
ひとつのアイデアは組織をマネジメントする動きを提供する専門のチームを作ることです。部下からは専門性(チーム)の上長と、人事的メンタル的な上長を持つ形になります。 これはちょっと難しいかなと思っていて、というのも専門性の上長と人事的メンタル的な上長の間のパワーバランスってどうなるんだろうという。メンター制度によってある程度はメンタルのケアや教育の実施を上長から外すことを実現できている事例は聞くのですが、完全な代替にはなっていなさそうです。
もうひとつのアイデアはチームマネジメントだけではなく従業員全員が「組織をマネジメントする動き」をすることです。上長によるトップダウンではなく、チーム内での相互作用によって組織をマネジメントしていくことです。 これはある意味で理想的なんですが、事業成長において必要な(比較的に)大量の人材を採用するときのハードルとなってしまいます。「組織をマネジメントする動き」には合う合わないもありますし、単純に習熟と時間を必要とするからです。それこそ新卒採用なんて無理じゃねって感じですね。またこの手のアプローチには再現性がまだなさそうだなと思っているということは、「ティール組織わからん、を掘り下げる」にもまとめています。
組織という仕組みで解決することの難しさ、あるいはマネジメントに超人を求めるのは間違っているだろうか
事業拡大における組織化の重要性と、その際にチームマネジメントの負荷向上という問題について書いてきました。組織化は重要だけど組織という「仕組みで解決」する過程でどうしても個人に依存しちゃうねという。正直まだいい解決は見つかっていないと思っていて、チームマネジメントに高い負荷をかける今までのやり方をチームマネジメントの様子を見ながらやっていくのが現実解かなぁと思っています。その点で、人事部が真にやるべきなのはチームマネジメントに対する教育とコーチングなんでしょう。
現職はまだこういう悩みとは無関係なのですが、自分が統制をかけていく側のロールなのでうまいやり方を見つけていきたいんですよね。このへん読むといいよって感じの推薦図書とか講演動画とか、もしあればTwitterやはてブ、本記事へのコメントなどで教えていただけると嬉しいです。